こんにちは、オイジーです。
ワインを扱っていると、よく話題に上がる問いがあります。
「日本はお酒を飲む人が減っている。では、ワインも厳しいのか?」
これは生業にしている人間にとって、かなり大事な問いです。
酒類全体の数量は、確かに長期的に下がっています。
それは誰もがわかっている。
けれど、答えが
「はい、縮小します」
だけでは少し乱暴ではないでしょうか。
リアルはどうなのか。
ここを探るには、実際のデータを読み解くことが重要です。
そこで、公表されているデータを集め、直視し、分析したことで、視えてきたものがありました。
見るべきなのは、単純な人口減少ではありません。
誰が、どのくらい、どんな場面で、どんなお酒を選ぶようになっているのか。
そこを読まないとリアルは視えてきません。
仕入れも、棚作りも、将来を見据えた投資もズレてしまうんですね。
この記事では、国税庁、厚生労働省などの公開データをもとに、日本のアルコール人口とワイン市場を読み直します。
ワイン業界の方にも、ワイン以外のアルコールを扱う方にも、そしてワインを日々楽しむ方にも、発見のある記事になったのではないかと思います。
では、いってみましょう。
酒類全体は、数量ベースで長期縮小している
まず、いちばん大きな数字から見ます。
国税庁の「酒類販売(消費)数量の推移」によると、酒類全体の販売数量は2003年度の9,120千kLから、2023年度には7,822千kLまで減っています。
2013年度の8,591千kLと比べても、2023年度は約9.0%減です。
ここで一つ、注意が必要です。
国税庁の販売数量は、純アルコール量ではなく、酒類そのものの飲料量です。ビールの1Lとワインの1Lとウイスキーの1Lを、そのまま同じ「1L」として数える指標なんですね。
では、成人1人あたりではどうか。
同じ国税庁データでは、二十歳以上1人あたりの酒類販売数量は、
・2013年度82.8L
・2018年度79.3L
・2021年度74.3L
・2022年度75.4L
・2023年度75.6L
です。
2021年度には、コロナ禍による一時的な急減もありました。
ただし、やはり一時的な上下はあっても、長い目で見ると下向きです。
なぜでしょうか?
人口が減っているから、だけではありません。
人口減少だけでは、酒類市場の縮小は説明できない
2013年から2023年にかけて、日本の総人口は1億2,729万8千人から1億2,435万2千人へ減りました。減少率は約2.3%です。
ところが、同じ2013年度から2023年度の酒類販売数量は約9.0%減っています。
つまり、人口が減った分よりも、酒類の販売数量の方が大きく減っているわけですね。

ここで起きているのは、母数の減少と、飲み方そのものの変化の重なりです。
厚生労働省系のe-ヘルスネットでは、週3回以上飲酒する習慣飲酒者について、
・男性は1989年の「51.5%」から2019年の「33.9%」へ大きく低下した
一方、
・女性は「6.3%」から「8.8%」へ上昇したと整理されています。
男性の厚い習慣飲酒層が縮みました。これは正直⋯かなり大きな変化です。
ワインに関わらず、アルコールに携わる業界なら間違いなく無視できない
「ショッキングな数値」
です。
一方で、悪いことばかりではありません。
実は「女性側では接点が少し広がった。」のです。
この変化は、酒類市場の今後を読むうえでかなり大きいです。
では、ワイン単体はどうなのか?
全体と同じように単純に沈んでいるのか、少し違う動きをしているのか。
ワイン近似の果実酒は、全体の中では底堅い
国税庁統計でワインを読むときは、「果実酒」と「甘味果実酒」を見ることになります。
ただし、これはぶどうワインだけを完全に切り出した数字ではありません。フルーツワインやシードルなども含むため、ここではワイン市場の近似指標として扱います。
2023年度の果実酒と甘味果実酒の合計は、約341千kLでした。酒類全体7,822千kLに対する比率は、約4.4%です。
2013年度は、果実酒等が約341千kL、酒類全体が8,591千kLでした。比率は約4.0%です。
つまり、数量そのものは
「ほぼ横ばい」
だけれど、酒類全体が縮む中で、ワインの構成比は
「少し上がって」
います。
つまり、この10年間、酒類全体の消費量は減っているものの、ワイン近似の果実酒等は数量では踏みとどまり、構成比ではわずかに存在感を増しています。
つまり、「市場全体が縮むから、ワインも同じだけ縮む」とは言い切れないんです。
ここはこの統計の面白いところであり、ワイン業界にとってはポジティブなデータです。

ただし、安心材料だけでもありません。
国税庁の国内製造品・輸入品別課税数量では、果実酒および甘味果実酒の輸入割合は、
・2013年度69.4%
・2018年度65.8%
・2021年度66.2%
・2022年度66.8%
・2023年度64.8%
です。
少し下がってはいますが、なお市場の約3分の2は輸入品です。
しかし約4.6ポイントの変動というのは、かなり大きな数字であり、見逃せません。

ではここで何が起こっているのか。
「日本ワインが増加し、日本ワインの時代がきた!」
とらえられるかもしれません。
少なくとも統計上は、輸入完成品の比率が下がり、国内製造品の比率が上がっています。
しかし、「日本ワイン」とは、「原料も国産」である必要があります。
なので、国内製造品の増加がそのまま「日本ワイン」、つまり国産ぶどうだけを使ったワインの増加を意味するわけではありません。国内製造ワインには、輸入原料を使ったものも含まれるためです。
日本ワインや国産ぶどう原料の動きは、国税庁の「国内製造ワインの概況」など、使用原料別の統計で別に確認する必要があります。
ここで起こっていることは、輸入完成品の比率低下と、国内製造品の比率上昇です。
つまり、「日本ワインの時代が来た」と単純に読むのではなく、国内製造ワイン全体の存在感が増している、と見るのが正確です。
飲む人の構造は、男性中心から少しずつ変わっている
では、誰が飲んでいるのか。
2024年の久里浜医療センター「飲酒と生活習慣に関する調査」結果速報訂正版では、過去1年間に飲酒経験がある人は、
・男性75.2%
・女性55.1%
でした。
ふだん飲んでいる酒類では、
・ビール・発泡酒が全体63.3%
・酎ハイ類が23.0%
で上位です。
では、ワインはどうか。
同調査では、過去1年に飲酒経験がある人のうち、ふだん飲むお酒としてワインを選んだ割合は、
・全体6.8%
・男性3.2%
・女性10.9%
でした。
全体で見ると、ワインはビールや酎ハイほど大きな酒類ではありません。
しかし、男女別に見ると、かなりはっきりした違いがあります。
男性では3.2%にとどまる一方で、女性では10.9%です。
つまり、ワインは「誰でも広く飲む酒」というより、飲む人の属性に偏りがある酒だということです。
酒類全体の飲酒人口が減っているとしても、ワインの需要は一律に減るわけではありません。
誰が飲んでいるのか。どの層に残っているのか。
そこを見ると、市場の本当の姿が見えてきます。
ワインは、ビールや酎ハイほど広い層に受け入れられるカテゴリーではありません。
なので、どの層に反応があるのか、をしっかり理解するのは重要です。
男性の方が飲酒比率は高いです。
しかし、女性の方がワイン選択率は高い。
これをどう読み解くかは、その人次第ですが、統計を分析したことで、徐々に活きたデータになってきました。

健康配慮は、ワイン市場の前提条件になった
もう一つ、避けて通れないのが健康配慮です。
厚生労働省の2024年「国民健康・栄養調査」では、生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している人の割合は
・全体11.4%
・男性13.9%
・女性9.3%
でした。
基準は、1日あたりの純アルコール量で男性40g以上、女性20g以上です。
同じ資料では、女性は50歳代が18.4%で最も高く、男性は60歳代が21.6%で最も高いとされています。
ワインで考えるとどうなるのか。
厚労省資料では、清酒1合にほぼ相当する量として、ワイン2杯、240mlが示されています。
今後間違いなく、過度なアルコールの飲酒を規制する風潮は強くなっていくでしょう。
ここで大切なのは、「量を飲む」ではなく
「限られた飲酒量で、満足度をどれだけ高められるか」
が重要になってくるという視点です。
これからのワイン提案では、ボトルを何本売るかだけでなく、どの量を、どんな食事と、どんなペースで楽しむかまで含めた提案が必要になります。
小売店ならハーフボトル、泡の小容量、保存しやすい提案、ノンアルや低アルとの併売なども視野に入ってくるでしょう。
飲食店ならグラスの量、ペアリングの杯数、アルコール度数の見せ方、グラスワインの充実、ノンアルコールカクテルであるモクテルの提案など。
輸入業者なら、低アルコールでも味わいの密度がある産地やスタイルの発掘。
健康配慮は、ワインの敵ではなく、
「健康を維持しながら長期的に、アルコールを楽しむ。」
と見れば、むしろ、ポジティブな理由の一部になる。
こういった発想の転換が求められる時代に突入している、と考えるべきだと思います。

小売・輸入・飲食店は、どこを見るべきか
ここまでの数字を、現場の判断に落とすとどうなるか。
現実的な取り組みとして落とし込むと、次のようにまとまりました。
| 見るべき変化 | 数字から読めること | 実務での考え方 |
|---|---|---|
| 酒類全体の縮小 | 2013年度から2023年度で酒類販売数量は約9.0%減 | 本数の自然増に頼らず、単価・粗利・継続率を見る |
| ワイン近似の底堅さ | 果実酒等の構成比は約4.0%から約4.4%へ | 全体縮小の中でも、相対シェアを取りに行ける |
| 輸入依存 | 果実酒等の輸入割合は2023年度64.8% | 為替耐性、産地分散、価格帯の設計が必要 |
| 女性接点 | 2024年調査でワインは男性3.2%、女性10.9% | 食卓・少量高満足・ギフト・健康配慮の文脈を厚くする |
| 健康配慮 | リスク飲酒は全体11.4%、女性9.3% | 「適量で楽しむ」提案を商品設計に入れる |
では、ワイン市場は今後どう見ればいいのか。
数量だけで見るなら、強気にはなりにくいです。
人口は減り、高齢化は進み、酒類全体の販売数量も下がっています。IPSSの将来推計でも、65歳以上人口の割合は今後さらに高まる見通しです。
しかし、ワインは数量だけのカテゴリーではありません。
食事との相性、産地の物語、造り手の背景、ギフト性、少量でも満足できる品質。こうした要素を持っています。
一方で、輸入がメインという構造は変わりません。
どんなビジネスでもそうですが、とくに輸入のビジネスは物量がコストを圧迫します。
消費量が減れば、自ずとコスト上昇につながりワインの価格が上がるという側面があります。
上がり続けるワインの価格に歯止めをかけるという意味でも、業界だけでなく、飲み手の輪を広げていくことが大切です。
既にワインの良さを知っているワインファンの方が
「ワインって良いものだよ」
とかけた一声が、バタフライエフェクトのように、ワインの時代を繋げる一歩かもしれません。
おわりに
日本の酒類市場は、数量だけを見れば縮小局面です。
けれど、ワインは奮闘しています。
誰にとって、どんな場面で、どんな意味のある一杯になるのか。
そこを丁寧に設計できるなら、ワインは
「たくさん飲む時代」のお酒
ではなく、
「ちゃんと選んで楽しむ時代」のお酒
として残れます。
数字は冷たいようで、現場の次の一手をかなり正直に教えてくれます。
ちなみに調査の途中で、非常に重要な数字を発見しました。
ワインはアルコール飲料の中では、今までは比較的なんとか耐えてきました。
しかし衝撃的なその数字は、危機感を感じずにはいられませんでした。
なにもしなければ、波に飲まれてしまうかもしれません。
好評でしたら、もう少し深掘りしてみようと思います。
では、また。
※各グラフは公開資料の数値をもとにOWMが独自に作成したもので、元資料の図表を転載したものではありません。
参考出典
国税庁「酒のしおり(令和7年7月)」酒類販売(消費)数量の推移、国内製造品・輸入品別課税数量及び輸入割合の推移
!https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/shiori/2025/index.htm
厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査 結果の概要」
!https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001603146.pdf
厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドラインについて」
!https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38541.html
健康日本21アクション支援システム e-ヘルスネット「わが国の飲酒パターンとアルコール関連問題の推移」
!https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-06-001.html
久里浜医療センター「令和6年度『飲酒と生活習慣に関する調査』結果速報 訂正版」
!https://www.ncasa-japan.jp/pdf/document122.pdf
日本ワイナリー協会「統計資料」
!https://www.winery.or.jp/basic/statistics/
総務省統計局「人口推計(2023年10月1日現在)」
!https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2023np/index.html
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」
!https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2023/pp_zenkoku2023.asp
OECD “Health at a Glance 2025: Alcohol consumption”











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