こんにちは、オイジーです。
皆さまは
「揮発酸」
という単語を聞いたことはありますでしょうか?
ワイン好きの間では度々話題になる要素でありますが、
もしかしたら聞いたことはない、という方もいるかもしれません。
でも日本人なら馴染みの「あの香り」だったりするんです。
今回はそんな「揮発酸」について深掘りしていきます。

「揮発酸」とは気化した酸の総称
揮発酸、何やら難しい響きですね。
でも意外とこの文字を分解してみるとイメージがつきやすいです。
揮発酸 = “揮発” + “酸”
つまり揮発酸とは、“揮発”した“酸”のことを言います。
もう少しわかりやすい言葉にすると、
「空気中に気化した酸」
の総称です。
ちなみに、英語で書くと「Volatile acidity(ヴォラタイル・アシディティ)」です。
なので「VA」と略されたり、「ボラ」という通称で呼ばれたりします。
どんな酸が気化するの?
では、どんな酸が気化しやすいのでしょうか。
おもに
「酢酸」
そして
「酢酸エチル」
です。
「酢酸」ってなに?
まずは「酢酸」からみていきましょう。
簡単に言うと
「お酢」
です。
調理でよく使うあの「お酢」が「酢酸」です。
揮発酸のあるワインとは、「ツン」とくるあの
「お酢の香り」
に近いというわけです。
しかしながら、ワイン中の酢酸量はお酢中の酢酸量に比べて何十倍も低いんです。
なので、揮発酸の香りを
「酢酸の香りだけ(お酢の香り)」
を頼りに探そうとすると、少し難しいかもしれません。
1857年、発酵の仕組みを解明したフランスのルイ・パストゥール博士が、ビールとワインが腐る原因を調査し、なんと犯人が「酢酸菌」だと突き止めたんです・・!
「酢酸エチル」ってなに?
「酢酸」とともに、揮発酸の中に含まれるのが
「酢酸エチル」です。
酢酸エチルとは
「マニキュア」や「除光液」のような香りです。
酢酸エチルは
「少量でも匂いを感じ取りやすい」
ため、揮発酸の香りとしてキャッチしやすいです。
なので、「酢酸の香りで揮発酸がキャッチしづらい」
と感じる方は、
「酢酸エチルの香り」に焦点を当ててみるとわかりやすいかもしれません。
しかしここで注意しなければいけないのが、
「酢酸エチルが多い=酢酸が必ず多い」
というわけではないということなんです。
「酢酸エチル」はワインの「良い香り」の一部でもある
実は「酢酸エチル」とは、ワインの中で自然にできる
「エステル」
という
「良い香り成分」
のうちのひとつでもあります。
具体的には
「赤い果実の香りをちょっと華やかにする」
「香りに香水のようなニュアンスを与える」
みたいな効果です。
そのため、一概には悪とは言えない・・・という側面もあるのです。
エステルとは
語源フェチのオイジーは、その言葉の意味が分からないときはまずその語源を調べます。
ドイツ語の “Essig-Äther(エッシッヒ・エーテル)” → 「酢のエーテル」
これが語源。
- Essig(エッシッヒ)=酢(acetic acid)
- Äther(エーテル)=エーテル類(揮発性のある化合物)
つまり最初は
「酢からできた揮発性の物質」
という意味で名付けられたようです。
ちなみにエステルは、酢酸エチル以外にも色々あるんです。
- 酢酸エチル → マニキュア、除光液
- 酢酸イソアミル → バナナ
- リンゴ酸エチル → りんご
- 乳酸エチル → ヨーグルトっぽい
- 酒石酸エチル → 白い花っぽい

「酢酸エチル」は「酢酸」がないと発生しない
「酢酸エチル」は「酵母(野生 or 培養)」が「糖分」を「アルコール発酵」させるときに同時に生成される可能性がある物質です。
しかし、実はこの「酢酸エチル」
なんと「酢酸」がないと生成されません。
つまり
酢酸 + エタノール(=アルコール) → 酢酸エチル(=エステル)
化学式:AcOH+ EtOH → EtOAc
というわけなんです。
つまり、「酢酸エチルの良い香り」を得るには微量の酢酸も必要…ということなのでしょう。
「酢酸菌」は酸素が大好きな菌
酢酸を生成するのは「酢酸菌」です。
「酢酸菌」は、空気中の
「酸素」を使って「アルコール」を「酢酸」に変える菌
です。
つまり「酸素が大好きな菌(好気性の菌)」なんです。
酢酸菌は酸素をエネルギー源にして増殖します。
ワイン中のエタノール(アルコール)を酸化して、酢酸(=揮発酸)を作ります。
これが後々カギとなってきます。

「酢酸菌」はどこにいる?
「酢酸菌」は自然界に普通に存在します。
特に「ブドウの皮」や「空気中」に普通にいます。
なのでいかに「共存」するか、ということが大事になってきます。
そこで彼らの大好きな
「酸素に接触させすぎない」
というのが重要になってくるわけです。
ちなみに、英語では酢酸がAcetic acid(アシティック・アシッド)、酢酸菌がAcetobacter(アセトバクター)です。
【菌の英名まとめ】
・揮発酸…Volatile acidity(ヴォラタイル・アシディティ)
・酢酸…Acetic acid(アシティック・アシッド)
・酢酸菌…Acetobacter(アセトバクター)

どのタイミングで「酢酸菌」ができるの?
ではなぜ、酢酸菌ができるのか見ていきましょう。
酢酸菌ができるタイミングは、
「醸造中」と「保存中」です。
それぞれ見ていきましょう。
「醸造中」にできる揮発酸
醸造中にできる揮発酸も
「醸造のどの工程なのか」
で話が変わってきます。
衛生管理が不十分
酢酸菌は果皮や空気中などどこにでも存在すると言いました。
なので、醸造に使用する「器具の表面」にもいます。
つまり、この表面に残存する酢酸菌が
次の仕込みに混入しないように
「洗浄」などの衛生管理がとても重要になってくるのです。
温度管理があまい
酢酸菌は「20〜30℃くらい」が最も活発になります。
発酵終了後のワインをその温度で放置すると、
一気に活動して酢酸を生成する要因になります。

「液面」が広い
液体において、どの部分が菌が繁殖しやすいのでしょうか。
答えは
「液面」
です。
前述の通り、酢酸菌は酸素を好みます。
「液面」は酸素に触れやすく、菌が住みつきやすいです。
液面から菌が繁殖して、どんどん酢酸を生産してしまいます。
なので、ワイン造りでは
「樽やタンクをなるべく満たす」
ことにより「空気との接触を避ける」ことが大事なんです。
ワインが入っているボトルも、よく見ると液面ができるだけ小さくなるような構造になっています…よね?
「野生酵母」を使う。
ナチュラルワインではもはや必須となっている、「野生酵母」
これは添加する「培養酵母」ではなく、
畑や空気中、ブドウの表面にいる酵母で、自然に存在しています。
画一的な「培養酵母」と違い、テロワールをより明確に表しますが、
一方で、「発酵初期に酢酸菌、酢酸エチル」を多く造りやすい性質があり、
さらにこれは特に「傷んだブドウ」で発生しやく、SO2を使えばその発生は大きく押させられるものの、
特にナチュラルワインではSO2の使用を極力減らすという方針のため、傷んだブドウを入れない
「選果」が大事になってきます。
また、「培養酵母」は酢酸、酢酸エチルを作りづらいように品種改良されているので、そういった部分でも
「野生酵母よりも揮発酸発生のリスクが少ない」
のです。
「酢酸」を生成するのは「酢酸菌」だけではない。
実は「酢酸」を生成するのは「酢酸菌」だけでなく、
「乳酸発酵(マロラクティック発酵)」や「酵母の代謝」でも生成されることがあります。
- 乳酸発酵(マロラクティック発酵)は、糖やクエン酸を分解するときに酢酸を副産物として出すケースがある。
- 残った酵母も、ストレス環境下(栄養が足りない・pHが低い・酸素がある・アルコール濃度が高いなど)で酢酸を生成することがある。
醸造において気を付けなければならないのは「酢酸菌」だけではないんですね。
SO2(亜硫酸)を添加しない
そしてSO2(亜硫酸)を使用しない、ということも酢酸菌発生のリスクを伴います。
ナチュラルワイン、ヴァンナチュール、自然派ワインなどSO2(亜硫酸)を使用しないワインというのは近年増えていますが、取り扱うにはここをよく理解しないといけません。
なぜならSO2(亜硫酸)は抗菌・抗酸化作用があるからです。
それを使用しない、ということはSO2(亜硫酸)に頼らずに、酸化や抗菌の対処をしないといけないということなんです。
ではSO2(亜硫酸)の抗菌、抗酸化の二つの効果についてみていきましょう。
「抗菌」作用の役割
まずは「抗菌」作用の役割を見ていきたいと思います。
抗菌とはなにか?というと
酵母・乳酸菌・酢酸菌などの
「微生物の活動を抑える」ことです。
つまり「酢酸菌」自体の活動を封じ込めるということですね。
「抗酸化」作用の役割
続いて「抗酸化」作用の役割は、
ワインの酸化(=色や香りの劣化)を防ぐ。
つまりこの酢酸菌に対する文脈では
「酢酸菌」の栄養源である酸素の供給を絶つ、
という役割でワインを守るということです。
SO2「抗菌」、「抗酸化」の両方の役割が活躍して「酢酸菌」の動きを止めるということです。
つまりSO2を使わないワインは、恩恵を受けれないということを理解しなければいけない。
SO2は近年悪者のように扱われますが、実に優秀なアイテムであることが理解できます。
一方で、その性質がわざわいして
「味わいを硬くしてしまう」
よって
「画一的な味わいになってしまう」
や
「熟成の速度を遅くしてしまう」
などという効果もあり、
ゆえにSO2の添加量を減らした、または全く使用しないジャンルのワインが増えてきているわけです。
いわゆる「ナチュラルワイン」「ヴァンナチュール」、「自然派ワイン」というものですが、
これらはSO2の効能の恩恵を受けないということを理解した上で、扱ったり、保存する必要があるということですね。
「保存中」にできる揮発酸
ここまでは「醸造中」にできる揮発酸を解説してきましたが
「揮発酸」は醸造中のみではなく
「保存中」にも生成される可能性があります。
醸造における揮発酸の発生は造り手の問題ですが、ここからは
業者による「流通」と消費者による「保管」
によって発生する可能性がある分野です。
つまり「自宅で保管中」や「お店で保管中」、「輸送中」に揮発酸が生成される可能性があるということです。
「コルク」は微量の酸素を通す
まず理解しなければいけないのは、コルクが微量の酸素を通すということ。
ワインは熟成する飲み物です。
熟成とは「緩やかな酸化」なため、この微量の酸素の透過が「ちょうどいい」んですね。
一方で、微量でも酸素が供給されるということは、
「酢酸菌」が動き出す可能性も残存しているのです。
温度が高い
そしてもっとも大事なのが「温度」です。
前述したように
「酢酸菌が最も活発になるのが20~30℃」
なのです。
つまり、
「20℃以上で保管すると、酢酸菌が再活動する可能性が高い」
ということなのです。
とくにSO2の使用量が少なければ、このリスクは跳ね上がります。
なので
「ナチュラルワイン、ヴァンナチュール、自然派ワインは温度管理が必須」
なのです。
酢酸菌のみならず、他の菌の再活動の可能性なども考えると
「12℃~14℃での保管が理想」
なのです。
熟成によるSO2の減少
SO₂(二酸化硫黄)は酸化を防ぐ「盾」のようなものですが、
「時間が経つと消耗」します。
酸素やポリフェノールと反応して
「結合SO2」
に変わるのです。
この「結合SO2」には抗酸化作用は、ほぼありません。
抗酸化力が下がると、 酸化が進みやすくなって「酢酸菌」が再活動できるようになるというメカニズムです。
なので、熟成が進んでいる途中というのは非常にデリケートなんですね。
「揮発酸」は「支配的」であればワインではなく「お酢」
で、結局「揮発酸」は「悪」なのか?
ということなのですが、
「揮発酸が支配的」になってしまえば、それは
「ワインではなくお酢」
ということになります。
実際に、国際基準の揮発酸値の上限は1.20g/Lです。
そして日本の穀物酢の酢酸濃度の下限は40g/Lです。
VA(揮発酸) ≒ 酢酸 + α(他の揮発性酸少量)なので、客観的に見ても揮発酸の量が増えれば
そりゃお酢だよね、ということになります。
しかし…
「揮発酸」は「ごく少量」であれば「ポジティブ」
「揮発酸」は「ごく少量」であれば
香りに「複雑さ」や「立体感」を与えることもあります。
また発生していても、熟成とともにワインに溶け込み、
それが「ポジティブ」な要素にもなりえます。
これはオイジーも経験済みであります。
また「揮発酸の要素が好き」という方も少なからずいらっしゃいますし、
なにを隠そう、オイジーも
「良質なもので、支配的でないものは好き」
でありまして、
「本当にピュアなワインは微量の揮発酸が含まれている」
と確信しています。
じゃあどうすれば「過剰な揮発酸のあるワイン」を避けられるのか
では、どうすれば「揮発酸のあるワイン」を避けられるのか?
これにはいくつかの方法があります。
【過剰な揮発酸のあるワインを避けられる方法】
・温度管理をしっかりする(12~14℃)(セラーを使用する)
・信頼のおけるインポーター(輸入業者)のワインを買う
(流通の全段階において、温度管理せずに輸入している可能性のあるインポーターのワインは買わない)
・信頼のおける販売店で買う。
(温度管理、テイスティングチェックをしている販売店で買う。)
・SO2の使用量が少ないワインを買わない。
(SO2がしっかり使用されていれば、多少温度管理が甘くても、味わいは落ちるが揮発酸は出づらい。)
まとめ
少し長くなってしまったのでまとめましょう。
「揮発酸」とはおもに「酢酸」や「酢酸エチル」などが気化したものの「総称」です。
「酢酸」はおもに「醸造」と「保管」において発生のリスクがあり、
「醸造」において、そのリスクを減らすのが「衛生管理」や「SO2の使用」
「購入」において、そのリスクを減らすのが「インポーター(輸入業者)」や「販売店」の選定。
「保管」において、そのリスクを減らすのが「温度管理」です。
「SO2が少ないナチュラルワイン」は特に気を付けましょう!
ということですね。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
「揮発酸」の全て。
議論が多い話題の一つですが、
オイジーが伝えたいのは
サクッと「理解」して
「取り扱いを把握」して
「旨いワインにありつこうぜ!」
ということです。
では、また。
参考文献
Pennsylvania State University Extension – Volatile Acidity in Wine
https://extension.psu.edu/volatile-acidity-in-wine
University of California, Davis – Department of Viticulture & Enology – Volatile Acidity
https://waterhouse.ucdavis.edu/volatile-acidity
MDPI Journal “Fermentation” – A Survey on Acetic Acid Bacteria Levels and Volatile Acidity in Several Wines of the Republic of Moldova (2021)
https://www.mdpi.com/2673-9976/26/1/79
National Center for Biotechnology Information (NCBI, PubMed Central) – Role of Acetic Acid Bacteria in Food and Beverages (2023)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10187567/



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