最近の日本へのワイン入港の遅れ。
ワインラヴァーにとってはヤキモキする問題かと思います。
毎年のスケジュール通りにワインが来ない。
昔はもっと早く入ってきた。
あっちのインポーターのワインは入港したのに、こっちのインポーターのワインはまだ入港しない。
なぜなんだ?
多分船会社と日々やり取りをする業務をしているような人じゃないとその理由はなかなか想像できないと思います。
オイジーはかつて様々な食品を、世界中から年間100コンテナほど輸入して、船会社やエクスポーター、フォワーダーと直接やりとりして、毎日毎日、船の遅延やトラブルと格闘しておりました。(何回もさんざんな目にあいました・・・)
なので今のもどかしい状況がめちゃくちゃリアルにわかるんですよ。
ですので、ちょっとまとめてみようと思います。
なぜ昔より遅くなったのか?
海運の技術は進歩しているはずなのに、遅くなるって「変」ですよね。
これを理解するには、まず海運の知識を理解する必要があります。
まずは予備知識を少しだけ。
•ヨーロッパの港を出たコンテナが、どのようなルートを辿って日本へ到着するのか?
ヨーロッパを出航した船は、まず最初に南下します。
南アフリカの喜望峰を周り、インド洋を通りシンガポールに向かいます。
そしてシンガポールでトランジット(別の船に乗せ替え)、
上海や釜山などを経由して日本に入ってきます。
あれ、すごい遠回りじゃない?と思ったら正解です。
実は昔とルートが大きく変わっているんです。
•スエズ運河が通れなくなった
一時期はニュースでもよくやっていたのでご存知の方も多いかと思います。
数年前スエズ運河で商船が軍事組織に襲われるようになり、通れなくなりました。
スエズ運河とはエジプトにある、アフリカ大陸とアジア大陸の間を通る運河です。
ここが通れなくなるとアフリカ大陸を一周するような喜望峰を周るルートを通らざるを得なくなります。
スエズ運河を通ることは超ショートカットだったわけですね。
これは痛い・・・
当時輸入業務をしていたオイジーも肌で物流が変わるのを感じました。
・日本への直行便の衰退
昔はヨーロッパから日本への直行便が数多く存在したそうです。
なぜなら日本がアジアの経済の中心だったから。
日本の港はアジアへの「ハブ」としても機能していたそうです。
2000年代前半まではまだ結構直行便があったようですね。
(今でもあることはあるようですが、コンテナ船の主流ではないです。)
オイジーが輸入業務をやっていた2010年代も、年々直行便が減っていっていました。
そして日本は経済的な存在感が薄れて行くことになります。
反比例するように東南アジアはグングンと経済的に発展してきました。
東南アジアは日本よりヨーロッパに近いです。
そうなってくると当然、東南アジアに寄ってから日本に来る、という経路になるのはごく自然なことかと思います。
・超大型船の出現
2000年代以降、コンテナ船の超大型化が劇的に進みました。
超大型船の出現はある種の物流改革だったようで、輸送コストの削減に大きく貢献したようです。
超大型船で中継地点まで運んだほうがいいよねってことで、シンガポールまで超大型船で運ぶようになりました。
これも日本への直行便が少なくなった理由の一つです。
・シンガポール港での停滞。
こうなるとシンガポールに貨物は集まりますから、当然混雑します。
一極集中の状況というのはなかなか改善できないんですね。その結果遅延します。
実は複数のインポーターのコンテナがシンガポールまでは、同じ船で来ることが多いはずです。
なのでここまではだいたい同じスケジュールなんだと思います。
・シンガポール後のトランジットによる遅れ。
シンガポールに到着したコンテナはランダムに振り分けられ、上海や釜山へ向かいます。
そしてオイジーが実際に輸入していて、一番苦労したのがこのシンガポールを経由した後。
ここからの行き先は完全にランダムです。
そして行き先によって諸事情が違います。
複数のインポーターの荷が同時期に出航しているのに、日本に到着するタイミングが違うのもここに原因があります。
例えば1月中旬の今時期に上海を経由すると春節の影響で物流が増加し、港がパンクしている、ということがあります。
だからこの時期に上海に入ると全然出てこない。。。
中国の春節は国際物流の仕事をしていると非常にやっかいなイベントの一つです。
釜山はいつ経由してもなかなか出てこなかったですね。。。
船会社のレポートだと港のキャパオーバーということでした。
オイジー的には釜山に入ったら要注意、と思っていました。
日本への貨物はだいたい東京の港に着くので日本海側の釜山は意外と遠い、ということもあります。
他にも台湾やインドネシアなどを経由することもあります。
・自然災害による遅れ
夏の時期、厄介なのは台風です。
台風が発生すると船は台風が通過するのを待つため、また遅延が発生します。
台風が連続すると、遅れが積み重なり偉いことになります。
日本への貨物は東南アジアを経由して南から日本に入ってくるので、意外と影響は大きいわけです。
台風だけではなく、コロナ禍では船員にコロナ患者が出たので、入港できずに海上に待機しています!なんて言われたこともありました・・・
こういった船上トラブルには常日頃目を光らせていなければなりません。
・港湾労働者のストライキ
港湾労働者の労働組合というのは非常に強く、よくストライキになります。
ストライキの期間、港の貨物は動きません。急ぎの場合は他の港を経由するようにしたり、やんややんやします。
特に北米の港湾ストライキは長期化することも多く最悪です。日本だとあまり考えられないですよね・・・
でもこれ結構な頻度で起きるんですよね。
今荷物のある港、これから入港予定の港でストライキがあると確実に荷物が遅れます。
・慢性的なキャパオーバー
最後に問題の根幹、キャパオーバーです。
これには二つのキャパオーバーがあります。
1つは日本の港湾倉庫のキャパがオーバーしているということです。
輸入貨物は通常の倉庫には入れられません。
「保税倉庫」という免許を持った倉庫にしか入れられないのです。
さらにワインは温度管理も必要、ワインのようなデリケートな商品を預けられる倉庫は限られていますので、倉庫がパンパンのタイミングだとヤードで待つことになります。
ヤードにはフリータイムという規定があり、数日はコストはかかりませんが、一定以上の日数が経過すると追加料金が発生します。この金額がバカにならない。
輸入担当者は上司にどやされないようにフリータイム内になんとか倉庫に押し込むために日々格闘しているのです。
特に大手が荷物を大量に持ってきたあとは倉庫がパンパンになるので最悪です・・・
輸入担当者の一番大事な仕事は倉庫といかに良い関係を作るかが大事と言っても過言ではありません・・・
多分これはワインの業界もそう変わらないと思うんだよな・・・
もう一つは港湾のキャパオーバーです。こちらの方が問題になることが多い。
船のスケジュールというのは一定の周期でループします。
しかし、コロナのちょっと前から様子がおかしくなってきました。
遅れが取り戻せないんです。
そんな最中コロナ禍になり、さらに遅れ、その遅れを取り戻せず、
そのままズルズル来て、今に至っていると思います。
多分もうあきらめて、今は遅れているスケジュールが正になっているんじゃないかと思います。
コロナ前まではスケジュールが遅れても、しばらくすると遅れを取り戻していたんですが、コロナ以降遅れているのがデフォ。
遅れているスケジュールに合わせていく、というような感覚に切り替わった感がありました。
・まとめ
ダラダラと書き連ねてきましたが、なんとなくイメージつきましたでしょうか。
理由がありすぎて、一概になんのせいで遅れているとは言えないのがわかるかと思います。
まとめていえば、国際情勢の変化・・・ということになるんでしょうか。
昔とは違い、海上スケジュールにランダム要素が増え、単純に到着が予想できなくなっているんですね。
これこそがどの造り手も遅れたり、はたまた一気にワインが入荷してきたりする理由となっているわけです。
5年ほど前はヨーロッパからの船は2カ月ほどで到着していました。今は3.5~4カ月、あるいはそれ以上かかるようです。
我々もつらいですが、多分一番厳しいのはインポーターさんだと思います。
支払いは前払いのことがほとんどだし、売上は予想より遅れるから資金繰りは大変になるし、それに加えて為替は最悪だし。。。
でもオイジーは分かります。船会社や輸入担当者はきっと精一杯やっているということを!!
(営業や荷主にやんややんや言われながら・・・)
我々にできることは首を長くしてじっと待つことしかないのかもしれません。
どうしようもできない不可抗力によってスケジュールは決まってしまうのです。。。
でもきっと悪いことばかりではないはずですよ。
だって・・・
その分ワインは熟しているんだから・・・・!!
以上!
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